インプラント治療

 インプラント治療は歯科医療において近年目覚ましい進歩を遂げた治療技術です。1960年代半ば、『オステオインテグレーション』という言葉によってブローネンマルクが提唱したチタン製骨結合型インプラントの理論はその後大きく発展し、現代では90%近い成功率を誇る信頼性の高い治療方法として認知されようとしています。
 骨結合型インプラントというくらいですから、顎の骨の状態が非常に重要になります。チタンを顎骨内に埋入し、その上に歯の形態を再現させ、噛むことを実現する。チタンが骨と結合することを『オステオインテグレーション』と呼びます。インプラントは顎の骨に埋める『フィクスチャー』、歯の形態が作られた『上部構造』、両者をつなぐ『アバットメント』の3パーツで構成され、これらはネジあるいは接着セメントで結合します。フィクスチャーとアバットメントが1体となっているものもあります。一般に、顎の骨の中に埋入したフィクスチャーが骨と結合する期間は上顎では約12週、下顎では約8週と考えられていますが、近年は表面処理などでフィクスチャーの物性が改良され、結合までの期間が短縮されつつあります。フィクスチャーと顎の骨が結合後、上部構造を作製しますが、まず、フィクスチャーの上部に仮のアバットメントを装着します。装着後、印象を取り(型取り)、上部構造が完成します。型取りから上部構造の完成まで約2週間、本数が多ければ1〜2か月程度を要します。治療開始から考えると、上顎で4〜5か月、下顎で3〜4か月が治療期間の目安となります。
 フィクスチャーを顎の骨に埋入する手術が最低1回は必要で、アバットメントを装着する2回目の手術も通常は必要であり、この『2回法』を実施している歯科医院が多いかと思います。いずれも局所麻酔で実施できます。その他に必要となってくる手術としては、患者さんの顎の骨と歯肉の状態に応じて、顎の骨を作る手術(骨造成術)、上部構造周囲の健康な粘膜を作る手術(顎堤形成術)などが必要となります。これらは全身麻酔で行われることもあります。
 完成後は、メンテナンスが非常に大切で、俗に言う『一生持つ』というのも患者さんと歯科医師によるメンテナンスに依ります。清掃や噛み合わせの問題でダメになってしまうこともあります。歯科医師側としては10年無事に使うことができて成功を考えますが、ただ、10年無事に使えたものは『一生持つ』可能性は高いです。現在一般には、成功率(5年無事に使用できる確立)は上顎で80〜90%、下顎で90〜95%と考えられています。トラブルとしては、フィクスチャーが骨と結合しない、結合してもその後、骨が吸収して溶けてしまってグラグラする、などの大きなトラブル(修理不可能)から、上部構造の破折、各パーツをつなぐネジのゆるみなど修理可能なトラブルがありますが、いずれにしてもしっかりとした診査・診断に基づいた慎重な治療計画と確かな技術、それとメンテナンスをきっちりとしていくことが大切です。
 当科で行っているインプラント治療には2種類あります。自由診療でのインプラント治療と顔面の外傷や口腔内に発生した腫瘍の術後に伴う摂食障害を改善するための保険診療でのインプラント治療を実施しています。保険でのインプラント診療を行うことのできる患者様は顎骨が著しく欠損しているため、インプラントを行う前に骨移植などによる顎骨の造成手術が必要となります。自由診療でのインプラント治療は、いわゆるインプラント治療で、一般の歯科医院で実施されている治療です。これらは健康保険の適応はできません。
当科では、ほぼ全症例でX線CT撮影を行い、しっかりとした診査・診断、それに基づいた治療計画を立てます。インプラント治療は原則2回法を適用します。埋入後の治癒期間は3〜4ヶ月とし、治癒期間を経てから上部構造を作っていきますが、顎の骨の状態と、周囲の粘膜の状態が良ければ、即日に仮の歯を入れる事もできます。特に前歯では即日の内に仮の上部構造が求められることが多いですが、逆に言うと、失敗を防ぐためにも、なるべくインプラントはしっかりと骨に結合させる治癒期間を置くようにしています。最近ではall-on-4ザイゴマ(ハイブリッド)という技術を応用して同日の内に、歯が1本もないいわゆる無歯顎の状態から、4〜6本のインプラントで支えられた仮の総義歯(総入れ歯)まで完成させる治療も行っています。
 インプラントを行うに十分な顎の骨がない場合は骨の移植などを行って、顎の骨量を増やします。患者さん自身の骨を移植する『自家骨移植』が最も信頼できる方法で、かつては腰の骨(腸骨)を使用していましたが、最近ではすねの骨(脛骨)を使用します。すねの骨から移植する場合では、手術翌日から歩行が可能で、局所麻酔でも実施しています。顎の骨がまったく足りない場合にはまず顎の骨を増やす手術を先行させますが、ある程度(数mmの高さ)があれば、10mm程度のインプラント(フィクスチャー)を埋入し、同時に足りない部分の骨を移植することも可能です。インプラントの手術と、骨移植の手術を同時に行うことで、治療期間を短縮させています。
 最近は、骨移植による負担をなるべく減らすため、人工骨を応用する治療も行っています。当科では合成セラミックであるβTCPを使用することが病院の倫理委員会で承認されていますので、感染性のまったくない安全性の高い人工骨を応用し、自家骨の採取量を減らす骨移植治療を行っています。