顎変形症とは

 上あご(上顎骨)または下あご(下顎骨)のどちらか,あるいはその両方で骨格的に位置のずれや形態の異常が大きく,顔貌や咬みあわせに問題がある場合を『顎変形症』と呼びます。先天的な疾患の結果生じる場合もありますが,主に遺伝的な要素が強いと言われています。顎変形症の場合,通常の矯正治療だけでは十分な治療結果や治療後の安定性が得られない場合が多く,顎の骨を外科的に手術で移動させる『外科的矯正治療』が行われます。

外科的矯正治療

 外科的矯正治療は,全身麻酔による手術が必要になりますが,矯正治療は保険が適用されます。手術は,下顎単独の場合と上下顎の両方の場合があります。また,下顎の形態に異常がある場合は,プレート除去手術を行う際に,部分的に形態の修正を行うこともあります。口の中からの手術なので顔の表面に手術の痕が残ることはありません。入院期間は約1週間です。治療の対称となるのは,上顎前突症(出っ歯),下顎前突症(受け口),下顎後退症(出っ歯,睡眠時無呼吸など),開咬症(前歯で物が咬めない),顔面非対称(顎の曲がり,顔の非対称)などで,外科的矯正手術を行うことで機能的に良く咬めるようにし,審美的な問題も改善します。




当科で顎変形症手術を行うことのメリット

・手術直後からのワイヤーによる顎間固定(口が全く開かない状態になります)を行なわず,ゴム牽引(口は自分で開けられます)のみを行うため,比較的早期(術後2日目昼)から食事が可能です.
入院期間が短い。上下顎の手術の場合,8日間。下顎単独の場合は7日間。プレート除去術は2泊3日で,オトガイ形成術の場合は3泊4日。
・矯正歯科医と口腔外科医が外来で同時に診察を行っているため,迅速な連携が取れ,術前検査や術後管理,経過観察が円滑に行われます。
・上あご(上顎骨)の固定の際,鼻に近接する部位では吸収性プレートを使用しているため,プレート抜去の際,鼻の変形を起こすことがない。
・術前に3Dソフトによるシミュレーションを行い,3Dプリンターにより術中に顎の位置を決めるために使用するスプリントを作成しているため,理想的な位置に顎の移動ができるため審美的な改善度が高い。


顎変形症の治療手順

精密検査・顎機能検査(2~3週間):歯型を採り,レントゲン撮影や顔・口腔内写真の撮影を行います。さらに,あごの動きや筋肉のバランスの診査を行います。
診断:検査の結果など資料をもとに,現在の状態と治療方針をお話しします。また,使用する装置や予想される治療期間,治療に関わる注意点について詳しくご説明します。
術前矯正(約1年~1年半):おおよそ月に一度の治療で,手術の際に咬みあわせが安定する位置まで歯を移動します
顎矯正手術:上下の顎が咬み合う位置に移動し,プレート固定を行います
術後矯正(約半年~1年半):骨ができ顎の位置が安定するのを待ちながら,おおよそ月に一度あごや歯並び,歯の噛みあわせの微調整を行います。
保定期間(約2年):歯を動かす治療が終わり装置を撤去した1~2年は,後戻りを起こしやすい時期です。その後戻りを防ぐために装置(リテーナー)を入れ,きれいな歯並びの維持管理を行います。

プレート除去手術

 一般に骨が癒合するまでの期間は下顎骨で4~6週,上顎骨で6~8週と言われています。したがって,骨の固定期間はそれを上回る日数が必要です。多くの場合,術後約1年程度で骨を固定したプレートを抜去しています。特に,術後感染が生じた場合には,最近がプレートについていますので,必ず抜去しています。この手術を行う場合も,全身麻酔での手術(2泊3日の入院)が必要です。基本的にはプレートの除去を行っておりますが,希望されない場合は,抜去を行わないこともあります。

顎変形症の治療費について

 保険診療にて顎変形症の矯正治療を受けるには,自立支援医療機関(更生・育成診療機関),顎機能診断施設の指定を受けた医療機関である必要があります。当院は,指定医療機関のため,手術を含めた全ての治療内容で健康保険が適用となります。矯正費用と外科手術・入院費用を合わせて約40~50万円前後の支払いとなります。なお,手術に関しては,以下に記す高額療養費制度を申請することで,限度額を超えた費用の払い戻しが受けられます。

高額療養費制度とは

 高額療養費とは,同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担が高額になった場合,一定の金額(自己負担限度額)を超えた費用があとで払い戻される制度です。70歳未満の方で,医療費が高額になることが事前にわかっている場合には,『限度額適用認定証』を提示する方法が便利です。詳しくは,全国健康保険協会ホームページをご参照下さい。