口腔がん

 口の中にできるがんは口腔がんと呼びます。この中には舌癌(写真1)、舌と歯ぐきの間にできる口腔底癌(写真2)、歯ぐきにできる歯肉癌(写真3)、頬の内側の粘膜にできる頬粘膜癌、口の上ブタ(天井)にできる硬口蓋癌が含まれます。これらの中でもっとも頻度の多いものは舌癌で、歯肉癌、口底癌、頬粘膜癌などの順でみられます。口腔がんは日本での全がんの2%程度しかありませんが、直接生命にかかわる重大な病気であることには違いはありません。口腔がんによって「食べる」、「飲む」、「話す」、「呼吸する」などといった、私たちのQOL(quality of life=生活の質)に直接深く結びついているお口の働きが大きく妨げられ、QOLが著しく低下してしまう場合があります。
 発生の原因は明らかではありませんが、喫煙、飲酒、口腔不衛生が危険因子としてあげられ、とくに飲酒を伴う喫煙は喫煙単独に比べて発生率が3倍高くなると考えられています。また、遺伝要因、放射線、ウイルス、う歯(むしば)や義歯による刺激などが複合して誘因になるともいわれています。
 一般的には初期のがんでは痛みや出血などはなく、硬いしこりが触れるのみの場合が多いです。なかなか治らない口内炎の場合も注意が必要です。口腔がんも早期に発見することができれば、身体の他の癌と同様に治癒率はきわめて高く、また治療後のQOLの低下も最小限にくいとめることができます。一方、進行癌ではしこりが外側に大きくなる傾向のものもあれば深部に入っていくものもあり、潰瘍を形成して痛みや出血が出現することがあります。さらに増大すると言葉が喋りづらくなったり食事が取りづらくなったり口が開かなくなったり、また口腔内の癌が頸部(首)のリンパ節に転移しあごの下や首のリンパ節の腫脹をきたすことがあります。確定診断は病理組織検査によってなされますが、腫瘍の広がり、リンパ節転移、遠隔転移の有無の確認には、PET-CT、MRI(核磁気共鳴診断)、超音波などの画像診断が行われます。
 治療法は、腫瘍の外科的切除、放射線療法、化学療法(抗がん剤による薬剤療法)、温熱療法、免疫療法などがあり、それぞれ単独あるいは併用療法が行われます。治療法の選択は、癌の発生部位、大きさ、病理組織診断、転移の有無などにより決定されます。早期の癌では手術単独で治療できますが、進行した癌になると手術に放射線治療や抗がん剤を組み合わせた治療になります。初期の癌だと切除後に重い後遺症がでることはあまりありません。しかし進行癌の手術で切除する範囲が広くなると言葉や食事に悪影響が出てしまいます。腫瘍が進行して、外科的切除による組織欠損が大きい場合には、その患者さんの身体の別の部分(腕の皮膚―前腕皮弁、お腹の皮膚―腹直筋皮弁)を用いたり、顎(あご)の骨などの欠損は、自家骨(腓骨、肩甲骨など)の移植や金属のプレートにより再建されます。手術の際には必要に応じて、頸部(首)の主要臓器以外のリンパ節、静脈、筋肉、脂肪組織を一塊として切除する頸部のリンパ節郭清も同時に行なわれます。
 1990年代に入り、癌組織に栄養を送りこんでいる動脈に直接抗癌剤を注入し、同時に放射線を照射する超選択的動注化学療法が開発されました。この方法と放射線療法を同時に行うことによって原発(もともとあった口腔内の癌)の手術を回避することも可能となりました。この治療方法を行うことによって、食べる、話す、飲み込むといった機能障害を最小限にすることができ、患者さんのQOL(quality of life=生活の質)は維持されるようになりました。

写真1 舌癌
写真2 口底癌
写真3 上顎歯肉癌