顎骨骨髄炎に対する動注抗菌療法(動脈からの抗菌薬投与)

顎骨骨髄炎に対する動注抗菌療法

 顎骨骨髄炎とはむし歯や歯周病、親知らずなどから細菌感染が生じ、顎骨内部の骨髄にまで炎症が及んでしまった病気です。症状により急性と慢性に大別され、慢性骨髄炎は難治性であり下顎骨に生じることが多く、一般的には抗菌薬の内服や点滴による薬物療法、炎症巣の掻爬や顎骨の一部を切除する外科療法が行われ、細菌の関与を考慮して高気圧酸素療法が併用されることもあります。これらの治療を行っても症状が改善しない場合には、あごの骨を切断する顎骨切除術を余儀なくされ、審美性(見た目)や機能(咬む、話すなど)を損ね、患者さんのQOLが低下してしまいます。
 骨髄は厚い皮質骨に覆われた顎骨の内部という特殊な部位であるため、適切な種類の抗菌薬が使用されたとしても内服や点滴では十分な濃度の抗菌薬を効かせることは非常に難しく、しばしば慢性の感染症として病巣が骨の内部に残ってしまいます。顎骨内の慢性化した病巣は免疫力の低下などに伴って急性化し、顎や口の周辺のみならず全身にも影響を及ぼすことがあります。
 そこで当科では感染してしまった骨髄内の病巣に十分量の抗菌薬が行き渡るための手段として、動脈から抗菌療法を行っています。この方法は、内服や静脈からの点滴とは異なり、骨髄炎が生じている部位の栄養動脈へ耳の前から特殊なカテーテルを挿入し、ダイレクトに抗菌薬を投与することで難治性の顎骨骨髄炎を制御する治療法です。動脈から投与した抗菌薬は投与した量がほとんどそのまま骨髄内に到達するため、従来の投与方法よりもはるかに高い抗菌効果が期待できます。これにより難治性の骨髄炎であっても、顎骨切除を回避できる可能性があります。
 この動注抗菌療法はこれまでの一般的な治療法ではなく、特殊な治療法であるため、当院の臨床研究倫理委員会からの承認を得て行っています。そのため、健康保険の適応とはならず全額自己負担での治療となり、およそ50~100万円程度の治療費がかかります。また、本治療法によって生じた合併症に対する治療も健康保険の適応とはなりません。

【治療前】下顎骨が線維化
【治療後】正常な海綿骨が形成

intra_img001